アイルランド旅行2014その4 コンペティション

今回のコンペティションに臨む上で自分の中にあったテーマは「一度アイルランド人になること」だった。
これまで自分の中で日本人であるところを手放せない自分がどこかにいて、それがリズムに特化したアイルランドの音楽の習得を、取り分け微妙な部分の習得を妨げているということを何となく自分で感じていた。
これまでは肉体の問題もあった。
同じことをやろうとすると肉体的にきつ過ぎて無理があった。
ところがちょうど一年前から始めたアレクサンダーテクニークのお陰で劇的に体が楽になって無理じゃないやり方が少しずつわかってきた。
誤解を恐れずにシンプルに言うと、今は今までに無い位近くを見ている。
すぐ目の前の音を、短い単位で見ている。
リズムを前に押し出すことを最優先にして吹いている。
多分多少やり過ぎな位。
それ位やらないとリズムが体に入り切らない。
この後必要な分だけより戻そう、そんな感じ。

そんな状態で臨み、今できることは一通りやれたと思う。
アレクサンダーテクニークによって本番の極限状態(ライヴとは明らかに違う異質な緊張感)の中でも何とか体のバランスを取ることができるということもはっきりわかった。

コンペティションそのものについては今回も本当にレベルが高かった。
音の太さ、リズムの強さ、装飾やヴァリエーションの豊かさ、そういった数々の要素がトップになるほど当たり前に揃ってくる。
結果を聞かなくてもわかる。
間違いなく自分よりいいパフォーマンスをしたという人が5人はいたと思う。
だから面白いというのもある。
これだけうまいのを次々やられるともうニヤついてしまう。

今回も結局入賞はできなかったけど、聴いている人達の反応はやはり年々変わってきてる模様。
特に同じコンペティター、中でもトップクラスの人達程向こうから声をかけてくれる。
自分自身がこの人は上手いと認める人達から「素晴らしい演奏だった。あなたの演奏のスタイルがとても好き」と言われるのはやはり嬉しい。

そして、今まで以上に足りないものがはっきりしてきた。
何というかスタイル云々を抜きにしてちゃんと前に来るかどうかみたいな部分。
音もリズムも。
あと巨大な体も(笑)
今回勝ったシボーンって女の子はこれまでずーっと2位に甘んじてた子だった。
体の大きさでもチャンピオンという位大きくて、呆れる程簡単そうに太い音を出す。
3年前に勝ったオーラ・マッコーリフも2年前に勝ったトミー・フィッツハリスも体は決して小さくない。
体も音も太い。
今回うまいけど残念ながら音が太くなくて前に来ないという人達は一様に体も細かった。
もう太らなきゃだめですかね?(笑)
生音で大きな会場というのはやはりきつい。
普段マイク慣れしている自分からするともう全く別のチャンネル。
ここはこれから何ができるか色々試して行きたいところ。

あと毎回謎過ぎて訳がわからなかったスローエアについても、初めて手がかりが出てきた。
審査員の一人がかなり詳しく教えてくれた。
「あなたの演奏した3曲のスローエアのうち2曲は本当に良かったのだけれど、1曲、オライリーの墓、あれはバージョンが良くない。あれはダーヴィッシュのリアム・ケリーのでしょ?彼は残念ながら歌に忠実ではないの。スローエアを演奏する楽器奏者はたくさんいるけれど、皆が皆歌に忠実ではないの。原典の歌に当たりなさい。歌と楽器版がかけ離れているものについても歌に忠実な奏者のものを参考にすること。もう一曲、Ashling Gheal、これは確かにちゃんと歌を汲んでいたけれど、参考にした歌手が残念ながら原典とは少し違う歌い方をする人です。もっと原典の歌を当たりなさい。Easter Snowは本当に良かった。あなたのスウィートな音、過度な装飾に頼らないスタイルを私は高く評価します。ただ、もう一人の審査員の好みは必ずしもそうではなかった。彼はまた違うスタイルのスローエアを好んだ。これは仕方のないこと。あなたはだからと言って自分のスタイルを変える必要は全くない。自分の信じるスウィートでシンプルで研ぎ澄まされたスタイルを信じて突き進みなさい」
とここまで言われた。
これはかなり嬉しい出来事だった。

全部終わったのは18:00位だったかな。
もう疲労と空腹で頭痛がする位疲弊してた。

夜は解放されて街へ。
壊れてしまっていたアコーディオンのソフトケースをゲット。
メインストリートの一番混んでるパブの目の前で飲んでたおじさんおばさん達に突然からまれ気に入られ、でも彼らはすんごく面白くてそれからその日ずっと彼らと飲みながらあちこちへ。

念願だったダーヴィッシュをホームタウンのスライゴーで聴くという夢も実現。
スライゴーのフラーの一番メインの野外ステージで聴くダーヴィッシュの演奏は本当に良かった。
前出のおじさんおばさん達と大はしゃぎで聴いてた。
この街の人達はダーヴィッシュについて誇らしげに語る。
ダーヴィッシュを聴いてアイリッシュ音楽を始めたと言うと大喜びしてくれる。
やはり彼らは特別で原点だった。

その後もパブに繰り出し寒い中半分外みたいなところで演奏したり、中の人でごった返したところで演奏したりだったが、5パイントは飲まされていたせいで途中で気持ち悪くなっちゃって2:30位で引き上げる。
翌朝、ギネスをたくさん飲み過ぎると次の日トイレが黒くなるという都市伝説が実話であることを確認。