iPad

デジタルネタ引き続きます。

今回は前回もちょこっと登場したiPad。

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豊田がApple好きで、iPadだけでなく、iPhoneやMacBook、Apple Watchなどを愛用していることは周囲の方々にはよく知られていますが、iPad導入には結構思い切りが必要だったのは確かです。

それはiPhoneがあってMacBookがあるのに、敢えてiPadが必要なのかという単純な理由でした。
価格も安くはないですし、モノを増やしたくないと思っているところにもう一つというのは確かに抵抗がありました。

結論から言えば買って本当に良かったと思っていますが、周りにもiPadを買うべきかMacを買うべきかで悩んでいる人がそれなりにいることがわかってきたので、少し自分にとってのiPadの意義を紐解いてみたいと思います。

 

1. iPad導入のきっかけ 楽譜作成アプリNotion

iPad導入のきっかけはとある動画でした。

https://youtu.be/c-sNjcAIkpY

https://youtu.be/qBzW59Zsse0

この動画、フィンランドの世界的な指揮者であり、作曲家でもあるエサペッカ・サロネン氏が、街中や郊外を歩きながら作曲をするというAppleの公式CM動画なのですが、この絵が本当に格好良く見えて、ずばりこれがやりたかったんです(笑)

ここで使われているのはNotionというアプリなのですが、これ大変優れていて、ピアノの鍵盤が画面上に出てくるので、外付けのキーボードなしに、iPadだけでかなり速く楽に楽譜を作ることができます。

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今なお自分の中ではこのiPadでNotionを使うのが楽譜作成では最速。

NotionにはMac版もありますが、iPad版の方が全然速いし、おまけに安い(笑)

しかも、音源が素晴らしくて、プロのオーケストラの音源を使っているので、これでオーケストラのフルスコアをつくるとそのままオーケストラで擬似再生できるような感じになります。

作曲の場が机やピアノの前から解放されるというのは素晴らしいことで、あの手の閃きが訪れるのは大抵外を出歩いている時とか、リラックスしている時とかなんですよね。

その時にパッと書き留めるというのはなかなか難しいことが多くて、ずーっと繰り返し歌いながら家に帰るというような謎の行動になったりします(笑)

それがすぐにこうして楽譜に書き留められるというのは勿論便利なのですが、そもそも作曲という行為を最初から外に持ち出してしまうという発想が素晴らしいと思います。

自分は作曲はそこまで頻繁にはやらないのですが、たまに書く時もやはり机やピアノに向かってさあ書こうっていうのはあまり無くて、自転車に乗っている時、お風呂に入っている時なんかにフラッと降ってきてそれを書き留めておいて、必要に応じて後でつなげたりアレンジしたりしてつくるという手順がほとんどです。

アイリッシュ系のテイストの音楽なんかは一曲がとても短いですから、それでどうにでもなります。

ただし、自分が主宰するO’Jizoというバンドの2ndアルバム《Via Portland》の中に『Trail from Portland』という10分くらいの曲があって、それをつくった時にはちょっと複雑な曲だったので、降ってきた程度なんかではとてもつくれなくて、素材をいくつも用意した上にそれを立体的に構築するという作業が必要でした。

そのつくり方のヒントになったのもこの動画でした。

1〜2ヶ月の間、毎朝早く起きては詰将棋みたいに構築していく、そんな作業を重ねてつくっていったのですが、やはり楽譜はこのNotionを使っていました。

切ったり貼ったりも簡単なので、組み替えや繰り返しなどは本当に助かりました。

 

2. レコーディングの仕事

さて、そういう訳で導入されたiPadとNotionですが、今は作曲以上にレコーディングの現場で役に立っています。

自分はレコーディングの仕事がとても好きで、できるだけ受けようと思っていますし、できるだけ無理難題にも対応しようと思っていますが(お仕事下さい)、ティン・ホイッスルにしてもアイリッシュ・フルートにしても不器用な楽器で一本で何でもできる訳ではありません。

キーのついたフルートは半音は一応一通り出ますが、それですら自由自在にあらゆる調性の曲を吹ける訳ではありません。

なので、曲に応じて長さの違うフルートを持ち替える必要があるのです。

自分は通常のD管の他に半音高いE♭管、一音低いC管、二音低いB♭管と4本のフルートを使い分けます。

半音の出ないホイッスルはさらに大変で、高い方からE, E♭, D, C#, C, B, B♭, A, A♭, G, F, E, E♭, D, Cとほぼ半音刻みの楽器が手元にあります。

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そして、一度楽譜が送られてくるとそれに合わせてどの楽器を使うのかから検討が始まります。

大体一つの楽譜につき3〜4つ位の楽器の選択の可能性があります。

これを当日作曲家の人に現場で聴いてもらって楽器を選ぶ訳です。

さらっと書いていますが、実は楽器を持ち替えると当然楽譜の読み替えの必要が出てきます。

3パターン楽器の選択があれば3パターンの楽譜の読み替えということになります。

自分は大学時代の初見試奏の授業はかなり苦手で読譜に特別強い方ではないですが、この移調だけは高校時代オーケストラ部でトランペットを吹いていて楽譜がほとんど移調譜で出てきた上に、先輩の方針でそれを書き換えずに目で移調するというのをずっとやっていたのですね。

そのお陰で移調だけはどうも人よりは多少得意なようでして。

今となってはその先輩に本当に感謝です。市川先輩ありがとうございます。

ただ、それにも限度があって、あまりにも複雑な楽譜だったり、数が多かったり、よくあることなのですが楽譜が前夜に送られてきたりすると、流石に危うさを感じて、 レコーディングそのものを円滑にするために移調譜をつくることがあります。

その時にまたこのNotionが大活躍します。

楽譜を一度さくっと同じものをNotion上で書いてしまえば、あとはそれを移調するのは一瞬。

現場での楽器の変更にも瞬時に対応できます。

何なら今は作曲家側もPCで楽譜をつくっている時代なので、そもそもの楽譜をMusic XMLというファイル形式で出力してそのまま送ってもらえればこちらで楽譜をつくる手間さえ省けます。

そうやって準備をしてレコーディングに望むのです。

レコーディング現場でもiPadそのままで楽譜を見るのでプリントアウト不要。

終了後もものが増えません。

 

3. 楽譜管理ソフトPiascore

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ついでに演奏の仕事の現場についても書いておきます。

アイリッシュ音楽を演奏する時はそもそも楽譜を使わずに、100%耳と身体で覚えて弾くので、楽譜の出番は全くないのですが、それ以外のジャンルの現場に行くと楽譜が盛大に登場し、かつレコーディング同様恐ろしい数の楽器を使い分けることになります。

楽器の数が2桁になるのはザラで、半音違いだと楽器の大きさがほとんど変わらないので、急ぎの持ち替えはちょっとした恐怖です。

今までに二度ほど間違えて半音違いの笛をつかんでしまい、一瞬おぞましい音を出してしまったことがあります…。

その瞬間はパニックで、楽器が違うのか、移調の仕方を間違えたのか、もう自分がどこにいるのかわからなくなるような恐怖体験です。

そういう訳なので楽譜が紙媒体でたくさん並ぶよりもiPadの中ですっきり並んでいる方がまだ事故が起きづらいのです。

その楽譜の管理にはPiascoreというアプリを使っています。

現場ごとにセットリストを組むことができ、順番の入れ替えも簡単。

Apple Pencilを使えば紙以上にスムーズに書き込み、書き換えができますし、Bluetoothで動くフットペダルを使えば譜めくりも手を使わずにできます。

この譜めくりが優秀で、楽譜が縦に一列に並んでスクロールしていくので、切れ目なしにスライドするように見て行くことができます。

たまにしか使いませんが、スピードを設定してその縦スクロールが自動で行くようにすることも可能です。

一番新しいiPad Proになると顔認証のシステムを利用して首を振るというようなジェスチャーでも譜めくりができるとか。

暗い現場もありますが、譜面灯も不要!

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自分は一世代まえのiPad Pro 10.5を使っているので、楽譜を読むには少々小さいのですが、だからこそ覚えるくらい練習するとポジティブな発想に置き換えています(笑)

大きな12.9インチも考えましたが、そうなると持ち運びが急に大変になるので10.5!

作曲の人でオーケストラを指揮する時にiPad Proの12.9インチを使っている人は時々いらっしゃいますね。

一昨年「題名のない音楽会」のミュージカルの回に出演した時は、オーケストラをバックに石丸幹二さんの歌と共演させて頂いたのですが、譜面台にiPadを載せているのを背後のカメラからバッチリ撮られていて、twitter上で「すごい時代だな」と呟かれている方もいらっしゃいました。

歌のみとせのりこさん、リュートの久野幹史さんとのトリオ企画、「幻想異国酒場」では、3人とも中世の衣装を着て演奏するのですが、見た目もやっている音楽も古めかしい感じなのに、譜面台の上は最新のハイテクというギャップが萌えるといじられました。

 

4. Mac→iPad

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こんな風に使っているiPadですが、実はiPad導入まではMacBookを持ち歩くというのがほぼデフォルトでした。

自分はそこまでパワーやスピードの必要な使い方をしないので、とにかく持ち運び重視の12インチのMacBook。

ところが、MacBook Airが壊れかけてMacBookに切り替えてから半年もしないうちにiPad Pro導入が決まったので、これは流石に少し後悔しました。

iPad Proは純正のSmart Keyboardを使うとほとんどMacBookと変わらないような感覚で使え、MacBookよりもさらに軽く、携帯のsimをiPhoneと分け合っているのでWifiが無くてもつながり、Wifi難民になる心配がありません。

前回の記事で軽く触れたようにクラウド系のサービスを多用する自分にとっては、オフラインでは仕事ができない時があるのでこれは切実です。

バッテリーもiPadの方が持ちます。

起動も動作も圧倒的にiPadの方が速い。

二つ以上のアプリを並べて作業するというような時も、デフォルトの状態ではiPadの方が優れていると思います。

こうしてMacBookの外出機会は激減したのですが、それならば持ち運び重視のMacBookじゃなくてMacBook Proでも良かったかもなと(笑)

今はもう旅行でもiPadしか持っていかないですね。

空港の手荷物検査も楽ですし。

色々なアプリを入れればMacでしかできない作業はかなり少なくなってきました。

勿論PCじゃないとできない仕事もあると思うので誰もができる選択ではないと思いますが、自分がやる程度の作業に関しては、今どうしてもMacじゃなきゃというのはCDを読み込んでデータをiTunesに入れるということ。

これだけがどうにもなりません。

自分はできるだけApple Musicを利用したり、iTunesなどからデータで買うようにしていますが、なんせ自分自身がCDをつくって販売しているような人間ですからね(笑)

この矛盾がちょっと気持ち悪いのは確かです。

とりあえず望むのはCDのジャケットやブックレットにある文字情報や写真などの情報もデータにセットにして配信して欲しいということ。

これが可能ならばもう自分はCD現物にはほとんど執着がありません。

この辺り、記事化のリクエストが来ているCD保管方法の方に話がつながってきますが、これはまた別の機会に触れたいと思います。

 

5. iPhoneでもMacでもない、情報シェアのためのデバイス

前の項目で書かれたことだけを書くと、まぁ別にiPhoneとMacでもいいじゃんって話になりますよね。

冒頭にも書きましたが、それは自分も導入前の悩みとしてありました。

しかし、実際に導入してみて感じたのは、iPadはiPhoneやMacとは違う役割を果たせるということ。

今はミーティングなんかでも電子媒体でメモを取るというのは当たり前のことになっていますが、この時に相手がスマホやPCを使っているとその画面はこちらからは見えないですから、本当にメモをしているのかなと思う瞬間が無くはないんですね。

もしかしてながらで別のことをやっているんじゃないかと(笑)

そう、スマホとかPCって非常に個人的な、閉じた雰囲気をつくる端末なんですよ。

そこへ行くとiPadを机に置いてメモを取っている場合は、それが外付けキーボードだったらPCと変わらないですが、画面上のキーボードやApple Pencilで書いている場合には相手にもそれが見えますからね。

そして、そのミーティングの中で例えば画像資料や動画資料を見せたいという風になった時にはiPadが最も真価を発揮します。

大きな画面で相手にシェアしやすいように作られているのです。

机の上で複数人で見るという時には本当に便利です。

iPadはよりコミュニケーション寄りのツールなんだなということを使い始めてから実感したのですが、このことを一番感じるのは笛を教えるレッスンの時。

動画や音源の共有にも便利ですし、生徒さん一人一人のカルテのようなものをつけているのですが、それを書き込むのもiPadの方が適しているなと思っています。

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さて、今回はFujitsuに引き続き、Appleの回し者のような記事となりましたが、一般的な使い方の話はネット上にいくらでも転がっていると思いますので、不思議なジャンルのミュージシャンならではの特殊な使い方を中心に書くことで、こんなこともできますよというiPadの魅力と、普段こんなことをしていますよという自分自身の特殊な生態を綴ってみました。