もうすぐアイリッシュの笛ティン・ホイッスルやアイリッシュ・フルートを教え始めて2年になります。
自分は割と昔から教育に関心があって、
色んなジャンルで関わり、色んな角度から教育というものを眺めてきました。
高校三年の時に音大を選択したのもその対象が音楽になっただけで、
教育への関心は変わりませんでした。
音楽教育を専攻する大学院まで言っておいてこんなことを言い出すのは何ですが…、
アイリッシュの笛を教えることについては、当初は結構抵抗がありました。
自分のレッスンは楽譜を一切使いません。
少なくともレッスン中は。
それは大学院での自分の研究が、アイリッシュの習得における楽譜の功罪というような内容で、
耳と体だけで覚えることのメリットを挙げ連ねていたからです。
もちろんアイルランドの人達はほとんど口頭伝承。
しかし、情報の少ない日本で便宜的に楽譜を使わざるを得ない状況が多いというのもまた事実。
そんな中、半ば強引に楽譜を使わずに口頭だけでレッスンを開始しました。
口頭伝承は基本一対一がベスト。
人数が多くなればなるほど難しくなります。
また、覚えれば覚えるほど前に覚えた曲のパターンが流用でき、耳コピの能力も上がるため、どんどん楽になっていきます。
逆に言えば、最初の一曲目が最もハードルが高くなるわけです。
カルチャースクールのような一対多数を基本とし、音楽は初めてという方々がぞろぞろいる状況でこの方法が頓挫するのは想像に難くないでしょう。
うそを教えている訳ではありませんでしたが、何となく自分を誤魔化しているような気がしてずっと抵抗があったのです。
そんなレッスンに転機を与えてくれたのは、既に現役をリタイアし、第二の人生を歩んでいたおじいちゃんの生徒さん。
やはり若い頃に比べて覚えるのが難しくなっていると訴える彼と試行錯誤している内に、
歌って覚えるという方法が確立しました。
勿論、アイルランド本国では、リルティング(いわゆる口三味線)で覚えるのが一般的ですし、
自分もオーケストラのトレーナーなどでクラシックを教える時は、半分以上歌って歌わせて教えていました。
しかし、それでも、実際にやってみるまでそれが一般の日本人の、音楽になじみのない方々に有用だとは想像できなかったのです。
さて、それからというものどこのレッスンでも歌を多用するようになり、曲を覚えるいい流れができるようになりました。
ひとえにこのおじいちゃんのお陰です。
ですがですが、一曲一曲を覚えるのが良くなっても、それが蓄積して効果が出てくるまでには、まだまだ時間が必要でした。
最近になってようやくです、生徒さんが曲を覚えるのが早くなってきたり、
段々いい音が出るようになってきたり。
勿論この間自分も上達し続けているので、自分が出す助言も着眼点や角度が変わっていく訳です。
ころころ言っていることが変わるというのではありません。
何と言いますか、上達って大体螺旋構造になることが多くて、
色々な着眼点を行ったり来たりすることで登っていくという部分が多分にある訳です。
まぁそういう訳で、段々自分も引き出しが広がってきて、生徒さんの現状をぱっと見て打てる手を選べるようになってきました。
近頃、フルートの個人レッスンの生徒さんが下のDの音を、段々しっかりした芯のある音で吹けるようになっていったり、
あれだけ重そうに辛そうに持っていた楽器を造作もなく操れるようになっていくのを見ると、
この仕事をやっていて良かったなと思えるのです。
実は最近もう一つ嬉しい話があったのですが、また次の機会に。
今日から八ヶ岳のミニツアー。
最近練習時間が思うように取れなくて、自分の演奏に全然納得が行かなくなってきたので、
今度は自分がたっぷりさらって精進して参ります。