しばらく全くの音信不通状態だったので、あいつは死んだかなと思われた方もいらっしゃったかもしれませんが、何とか無事に生きています。
そして、本当に情報が早いのですね、既に一部では伝わっているようですが、取り急ぎご報告致しますと、コンペティションは残念ながら入賞できませんでした。
この2ヶ月間、フラー・キョールを含め5つの音楽祭に参加し、色んな演奏を見聞きし、また何人もの先生の指導を受けてきました。
その中で、ダンスチューンに関してはまだやらなきゃいけないことがたくさんあることが既にわかってきていて、とりわけリズムに関してさらに奥深いところまで見えてきていたので、それらを消化し切る前にコンペティションはちょっと難しいなという部分がありました。
リズムはもう無意識レベルになるまで消化していないと使えないので。
一方、色んな先生に100%OKとまで言われ、絶賛され続けてきたスローエアー部門でまさか入賞さえできなかったというのは想定外で、聴いていたお客さんから「これで君が優勝できなかったら審査員の頭には長くアイルランドで音楽を学んできた人間にしか取らせまいという固定観念があるに違いない」と言われた位演奏のレベルには差があったので、ちょっと不可解だなと思ったのですが、帰りに審査員の方から呼び止められて、「あなたのスローエアーは、一周目は完璧ですばらしい演奏だった。ただ、二周目にトラディショナルな語法から外れてしまったり、元になっている歌の歌詞のつながっている部分を一箇所切ってしまい、大きく減点せざるを得なかった。二周目も厳格にほぼ一周目と同じことをしなければならない。そうすればあなたは勝てた。素晴らしく美しかったからまたトライして欲しい。」と言われました。
これは何とも難しいところで、実際元になっている歌を勉強しなければならなかったのは確かなのですが、審査員によっても相当審査基準や好みが違うそうで、あとはもう運次第なんだそうです。
また、これはスローエアー、ダンスチューン問わない話ですが、実際今回も、これは聴いていて楽しいなと思わされる、お客さんを湧かせる演奏が、トラディショナルな語法から外れているとみなされて平気で落ちて、面白みの無い安定した地味な演奏が優勝する例をいくつも見て来ました。
ここがコンペティションの一つの限界とも言えるところで、トラディショナルな語法とお客さんを魅了する音楽というのは時に矛盾してしまう部分がある訳です。
お客さんを喜ばせるために音楽をつくるという精神性自体が、質実剛健なトラディショナルの語法からはみ出てしまい、減点対象になる、そういう部分は多分にあります。
ここに自分はずっと悩み続けて来ましたし、個人的に指導してくれた先生も一様に同じジレンマを抱えているようで、その上でやはり面白い演奏をした方がいいという先生と、とにかく安定した地味な演奏を求める先生とに分かれるような感じでした。
自分は完全にお客さんを意識してしまう方なので、お客さん受けはやたらいいのですが、多分あちこちで減点されているのだろうなと思います。
スローエアーなんかは厳格に同じことを二回繰り返せと言われて、変化なく単調に同じことをやるのにはかなり抵抗がある訳です。
だから、全く正反対のことを言う先生がいて、審査員もその時によって違い、安定した地味な演奏が要求されるのか、面白みのある演奏が求められるのかわからないということになった時に、迷う位ならと後者を選んでしまう訳です。
また、これは人から言われて気付いたのですが、アイルランド人がやると伝統をいい意味で広げる新しい試みと評価されることが、日本人によってなされると伝統がわかっていないとみなされるということが当然あり得る訳で、恐らく日本人が評価されるにはアイルランド人以上に伝統に忠実でなければならないということになるでしょう。
コンペティション自体はこういう難しさがあるのは否めないのですが、それをきっかけに自分の苦手な語法に真正面から取り組め、今までできなかったことができるようになったり、捉え方が変わったりとそれはそれで価値がありました。
スローエアーは流石に悔しいので当然来年もう一度挑戦してみたいですし、ダンスチューンも勿論、シンプルに演奏するだけで魅了できるようなより切れの良いリズムを身につけて、もう一度トライしてみようかと思っています。
もっともスローエアーに関しては3曲のスローエアーを演奏するのですが、実は8曲用意して紙に曲名を書いて提出し、2曲を審査員が、もう1曲を自分が選んで3曲演奏するというとんでもないルールを当日その場で知ってかなり慌てたという経緯があるので(笑)、そこも含めてきっちり用意して行きたいと思います。
ただ、今年よりは随分短い滞在になるのではないかと思っています。
二ヶ月半は結構長くて、水やら空気やら食事やらきつい部分が長期化してくると健康にも影響が出て来て、正直二ヶ月過ぎた辺りから日本に帰りたいなぁと思うことが多々出て来ました。
この国はとても魅力的な国ですが、ここに定住したいとはやはり思えず、日本が好きなんだなぁと改めて思わされました。
音楽に関してでさえ、年中ダンスチューンばかりセッションで弾いてれば満足かというと全然そうではなくて、静かな環境でゆっくりとした音楽も演奏したいですし、アイリッシュ以外の音楽も同じように大事で、この国の音楽は自分の一部でしかないということを実感した次第です。
そうは言いながらもこの二ヵ月で吸収したものはとてつもなく大きく、まだ消化し切れていないですが、自分の演奏そのものは既に相当変わってきていると思います。
日本での演奏を楽しみにしていて下さい。
では残り二週間何とか生き延びて帰りたいと思います。
取り急ぎ報告まで。