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楽器職人 その2 サム・マレー

さて、今度はサム・マレーSam Murrayについて書きましょうか。
その前に予備知識を若干。
サム・マレーはゴールウェイ在住のフルート職人で、彼のフルートはアイルランドでは非常に人気があるということは前にも書きました。
どの位人気があるかというと、Wooden Flute Obsessionというアイリッシュフルート奏者の演奏を一人1セットずつ、これまでに126人収録した世にもマニアックなシリーズもののCDがあるのですが、そのCDのHPに誰がどこの楽器を使っているか一人一人書いてありまして、25%位はサム・マレーじゃないかという位使用者が多いのです。
実際この後フラー・キョールとその前のScoil Eigseというサマースクールで結構な数のフルート吹きを見ましたが、多分割合としてはもっと多かったですね。
子供達が使っているフルートも三人に一人はサム・マレー。
皆特徴のあるケースを持っていて、楽器そのものの形も一箇所特徴的な部分があるので、ケースに入れてようが裸で持っていようがすぐわかる。
そんなサム・マレーのフルートですが、日本ではあまり使われていません。
というのも、その原因は、彼がHPを持たず、海外からはメールや電話でのオーダーのみで、オーダーから納期までが一年以上と待ちが長めであり、そして、何よりその長いウェイティング期間を経た後納期を守らず、一部からはエンドレスウェイティングリストとさえ呼ばれる位待たせるという特殊事情にあります。
なので自分も、関西の吹いたことがあるプレイヤーから非常にパワフルで良いという感想を聞いたことがありだけで、実際に吹いたことがありませんでした。
こういうのって当然と言えば当然なのですが、一人でも誰かが持っていると実際に試すことができるし、オーダーのやり取りの事情なんかもわかるので次々に増えたりするのですが、一人もいないと流石に怖くて誰も手が出せないんですね。
実は最近身近に彼にフルートをオーダーした人がいて、ついに口火が切られるかと思いきや、納期を一年過ぎてもまだ来ない(笑)
かえって怖くなり、誰もオーダーしませんね、今となっては。
前情報はこの位にして、話をゴールウェイに戻しましょう。
ポール・ドイルの工房を出た後割りとすぐに行ったのが一回目。
時刻は14時頃。
工房はすぐに見つかりましたが、隣のスタジオのスタッフ曰く、昼食のため不在。
小さな工房でしたが、パッと外から見てもぎょっとする位の散らかりよう。
まあフルートの名工となればこんなもんでしょうか。
二回目は夕方5時頃。
先程はついていた電気が消えているところを見るともう仕事終いの模様。
(おいおい、一体いつ仕事してるんだ、この男は。さすがはエンドレスウェイティングリスト。)
翌朝行ってみると、工房前に二人の若い男が。
まさかこんなに若い訳はあるまいと思いつつサム・マレーはいるかと問うと、やはり息子だったようで、父親を呼んでくれました。
呼ばれて出てきたのは、なるほどという感じの目つきの鋭いひげもじゃの男。
50歳は過ぎている感じでしょうか。
日本から来たこと、彼のフルートを試してみたいということを伝えると、快く工房に招き入れてくれ、間髪入れず「お前のフルートを見せてみろ」と。
渡すとすごい勢いでパラパラと吹き鳴らし、「ちょっと細過ぎてあまり息が入らないな」
(カチン。そりゃあんたの吹き方じゃ物足りないだろうよ。)
そして、「今試せる新しいフルートが無い。」
(ブルータス、お前もか。)
「古いタイプのならある。」
吹いてみると意外な程きれいな音がする繊細なフルート。
「それは今のとは全然違う。」
(試し吹きさせる意味があるのか?)
「明日の午後二時に来い。今つくっているフルートを完成させておいてやる。しかもここでパーティーがあってセッションもやるから吹きに来い」
(お、いい展開。)
ついでなので、一昨年注文したUさんのフルートはどうなっているのか問うと、「彼のは二度も送ったんだが、二度とも送り返されてきた。メールもしたが返事が無く、連絡が取れない。もう一年以上も前の話だ。もし連絡が取れるなら連絡をとってくれ」
(なんだ、いい人じゃないの)
「今趣味のアンティークの腕時計の話が盛り上がってて忙しいからそれじゃ。」
やはり仕事してないんじゃないかという疑問を抱きつつ、その日はおいとま。
翌日約束の時間に行ってみると、何故か人気の無い工房。
(嫌な予感がする)
工房前に貼り出されている電話番号に電話してみると、
「昨日は忙しかったからまだ終わっていない」
パーティーは?と問うと、
「そりゃ昨日だ」
(……。こいつをまともに相手にするのはやめにしよう)
という訳でサム・マレーとの接触はなかなか素敵な感じに終わった訳ですが、後日Uさんに連絡してみると、大人な対応で、とても喜びながらも、「メールアドレス変えたのは向こうなんだけどねぇ(笑)」なんて涼しい感じの怒りが感じられるメールが来てました。
さらに後日エニスにお住まいの知人にことの顛末を話すと、「それ嘘臭いなぁ、本当に二回も送ってたら送料請求してきそうなもんだよ」とのこと。
もう胡散臭さは上がる一方ですね。
しかして実際にその楽器はどうなのかと言いますと、これがなかなか良いから困りもの。
次の週に同じクラスの人に吹かせてもらったのですが、前に自分が吹いていたパトリック・オルウェルのフルート、爆音モデルと言われたこのフルートが大人しく思える位音の大きな、吹き込みに強い攻撃的な感じの笛。
ある意味職人の人柄を表しているのかもしれません。
この後、それを裏付ける出来事が起こるのですが、それはまた別の話に。